3日目は、バスに揺られアルプスの丘陵地へ。
高速道路を降りると、まるで「アルプスの少女 ハイジ」に出てくるような景色が広がっています。
そしてついたのが、スイス・ツヴァイジンメン村にあるサシャ・シェアさんの自宅兼オフィスです。
そもそも今回の研修名となっている「KANSO」とは、大工&建築士のサシャ・シェアさん、もるくす建築社の佐藤さん、森林環境コンサルタントの池田さんの三者が、伝統的なマテリアルを科学的な知見を含めて組み上げるローテクな建築を目指すチームのことで2021年から活動されています。
そのKANSOのコンセプトを体現した建築が、サシャ・シェアさんの自宅兼オフィスです。
この建物の大きな特徴が、「機械的な冷暖房設備がないこと」
それを実現させているのが、圧倒的な質量によって建物自体の蓄熱性・吸放湿性を担保しているということです。
木材の使用量で比較すると、日本の一般的な木造住宅だと12〜15立米ほど、創伸で建てる家で30立米ほどなのに対し、この建物はなんと、400立米の木材を使用しているそうです。
また床の仕上げは三和土なのですが、それに使われた土の量は、40tだそうです。
こんなにたくさんの木材と土は、太陽光を蓄熱するための蓄熱体として、建物の骨格である構造体として、外壁、内装の床・壁・天井の仕上げ材として使われています。
その結果、標高1,100mの場所に位置していても太陽が1日出れば、3〜4日ほどはその蓄熱した熱で過ごすことが可能だそうです。
室温も19℃以下に下がることはなく、19〜25℃で推移しているそうです。
ちなみに同じ地域の建物では、だいたい年に220日程度は暖房をかけるそうで、暖房エネルギーを考えると大きく変わってくることが分かります。
ちなみに太陽光のみで暖められた空間は、冷暖房をエアコンでしている空間とは異なり、温もりが肌を包み込むような空間でした。その理由は、空気が動かないから。薪ストーブで暖をとったときのような温もりを全身で感じるような空間でした。
また、この建物には換気システムも付いていません。シャワーや料理で出た湿気も、壁や天井の木材が吸ってしまうので、気にならないしカビも発生しないそうです。
なぜこのような建物を建てられたのか。その理由は、今の建築が手段と目的入れ替わってしまっているということを挙げられていました。
スイスでも、日本でも、エネルギーの削減ということは建築業界でも大きく注目されています。そこで多く取られる手法が、太陽光パネルを導入し自然エネルギーによってエネルギーを賄うということ。
確かに、太陽光パネルを導入し自家発電・自家消費を行うことで、必要なエネルギー量が減ったように感じます。しかしそれでは、自分がエネルギーをどれくらい節約できるのか、という点に目が向くことはなく、根本的な解決にはなっていないのではないかということです。
本当に必要なのは、建物自体をエネルギー負荷のかからないように計画し、エアコンなどの冷暖房器具をそもそも使わなくていいように、使う時間を極力減らせれるような建物を建てることです。
それに「設備」にはメンテナンスがつきものです。導入費用、維持管理の費用、さらには処分にかかる費用がかかります。
その設備をつくる、使う、捨てる時のエネルギーも考える必要があります。
そんなことを考えて建てられたのが、サシャさんの自宅兼オフィスだということでした。
例えば、省エネ関連の補助金に太陽光の搭載が条件にあることは非常に多いです。そうすると、極端な話をすればたくさんの太陽光パネルを導入すれば、家の性能をそこまで上げなくても計算上はエネルギー量をゼロにすることができてしまいます。
それは果たして、本当にエコロジカルな建築が増えたと言えるのでしょうか?
将来的に解体をするとなった時に、木を木材として処分できなくなってしまう断熱材や、リサイクル方法が確立されていないような素材を多用して、エアコンで24時間、温湿度を管理する”性能の良い家”を建てたとして、それは本当にエコロジカルな選択なのでしょうか?
そんなことを、考えさせられる見学でした。